数々の著名人を苦しめた性病、梅毒について

2019年12月10日
病原体

梅毒は歴史の古い性病のひとつで、大航海時代から現代に至るまで世界中の多くの地域で蔓延していました。日本に残されている最古の記録は1512年で、室町時代後期(戦国時代初期)です。記録が残っていない分を考慮すると、これよりも前に日本に伝わったと考えられます。戦国時代には5人に1人が感染していたという説もありますし、黒田官兵衛や加藤清正などの有名な戦国武将もこの病気で命を落としたと考えられています。他にもフリードリヒ・ニーチェやシューベルト、志賀直哉などの著名人も梅毒患者であった可能性が高いといわれています。

有名な戦国武将を苦しめた梅毒の起源で有力視されているのは、コロンブス説です。コロンブスは新大陸(アメリカ)を発見して、1493年3月31日に帰還します。その翌年の1495年にコロンブスと同行した兵士がイタリアに侵攻しますが、兵士の間で梅毒と思われる病気が流行しました。この頃のアメリカ大陸では人骨の発掘調査により、梅毒の病原体に近い病原性を持つスピロヘータによるトレポネーマ症という病気が存在したことが確認されています。この病気がヨーロッパに持ち込まれて、性病に変化して梅毒が生まれたと考えられています。

コロンブス説が正しいとすれば、1493年にヨーロッパに上陸してから20年も経たないうちに大陸を経由して島国の日本に梅毒が伝播したことになります。病気の呼び方は現在と異なりますが、当時から性的な接触によって伝染する性病であることは広く知れ渡っていました。

特徴は、発症と無症状の潜伏期間を繰り返しながら何年もかけて病状が進行することです。症状は感染してから4段階(第1期~第4期)に分けられ、病期ごとに異なった症状が発症します。1期(3ヶ月以内)では感染部位にできもの(硬性下疳)ができて、膿が排出されます。その後数ヶ月から3年ほど無症状の期間が続いてから第2期の症状を発症し、全身の皮膚やリンパ節に赤い発疹や発熱・倦怠感を発症します。治療をしないで放置して自然に症状が収まり、再び無症状の潜伏期間が数年ほど続きます。

数年間の潜伏期間を経た後に筋肉や骨などにゴムのような腫瘍ができたり(第3期)、脳や内臓が侵されて腫瘍や認知症・運動障害などを発症(第4期)して死に至ります。病期ごとに違う症状が出るので病気に気づきにくいですが、放置は危険です。

梅毒は歴史を通じて多くの一般人や著名人を苦しめてきた性病で、1940年代後半に特効薬が発売されるまでは死の病として恐れられてきました。この病気の原因は梅毒トレポネーマと呼ばれる病原菌に感染することで、ペニシリン系抗生物質が有効です。現在はペニシリン系の抗菌薬で完治できますが、治療が遅れると腫瘍で顔や体の他の部分が崩れてしまうので放置は危険です。病原菌に感染する原因の多くは性行為で、感染直後の第1期であれば皮膚の表面にできる病変部(できもの)から排出される膿に触れるだけで伝染が起こるほどです。患部に触れるだけで簡単に感染してしまうので、性行為の際に男性がコンドームを着用しても予防することができません。